皮膚の断片
2005年のヴェネチア・ビエンナーレで発表した『マザーズ』(2000―2005)は、亡くなった母の下着や化粧品が沢山残っていて、捨てようと思って撮り始めたものです。写真に撮れば捨てられるかもしれないとひっぱり出して写真に撮ったけれどやっぱり捨てられなくて、下着を窓にテープで貼ってビデオでも撮った。ヴェネチアでは写真とともに、その12分の私の初めての映像作品を展示したわけです。肉体はもうないけれど、下着たちがぞろぞろ出てきた時に母の皮膚の断片があるような気がしたんです。彼女の皮膚が家の中にまだいっぱい残っている現実に直面して、記録をしようと思った。記録性という意味での写真は、あまりに写真の王道を行くようで苦手なんですけど。そもそも記録したくないって写真を始めたわけだから。
死というのはモノを残すことなんですよね。モノだけ残っていく怖さかな、そのモノたちは存在感があるわけですよ。何で撮れたかというと母とはうまくいってなかったからですね。うまくいっていたら撮らなかったと思う。
私は父親っ子で、父が亡くなってから5年の間に少しずつ話し始めて、やっと話せるかなと思った時に母が亡くなった。だから展覧会を開くということは、下着の写真を前にして母と対話を積み重ねる場でもあったわけです。 |